被相続人が生前金融機関に対して有していた預金債権(預金払戻請求権)は,相続開始後、どのように取り扱われるのでしょうか。
この点について、判例は、預貯金等の金銭債権は、遺産分割分割協議を待つまでもなく、相続開始とともに法律上当然に分割され、各相続人に法定相続分に応じて帰属する(遺産分割の対象にならない)と判示しています(最高裁昭和29年4月9日判決等)。
したがって、理論的には、相続人は、銀行等の金融機関に対して、それぞれ自己の法定相続分に相当する部分の払戻しを請求することができることになります。 ただ、実際には、ほとんどの金融機関は、相続人全員の署名押印のある遺産分割協議書又は相続人1名を払戻人の代表者とする内容で相続人全員が捺印した同意書と各自の印鑑証明書を提出しなければ、預金等の払戻しに応じてくれません。これは、金融機関が後日相続人間のトラブルに巻き込まれる防止ためのようです。 したがって、一部の相続人で払戻しを請求する場合には、金融機関に対して訴訟を提起するしかありません。
このように、預金債権は、本来遺産産分割の対象にはなりませんが、実務上は、遺産分割調停においては、相続人から預金債権を分割の対象にしないという積極的な申し出がない限り、そのまま分割対象に含めて調停手続が進められることが多いようです。また、遺産分割審判手続においても、相続人間において、預金債権を分割対象に含める旨の合意が成立すれば、預金債権を分割対象に含めて審判するという扱いにしているようです。